だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

天涯の砦/小川一水

◆読んだ本◆
・書 名:天涯の砦
・著 者:小川一水
・出版社:早川書房
・定 価:1,500円
・発行日:2006/8/31

◆評価◆
・サバイバルSF度:★★★★
・生き残りを賭けた戦いとドラマ度:★★★
・ハラハラドキドキ度:★★★

◆感想◆
地球の低軌道上にある宇宙基地「望天」。構造体の中心軸と極円盤を接合するベアリングを点検中、大事故が発生。分解した構造体の中に閉じ込められた数人の生存者は、宇宙に漂流しはじめる…

破壊した望天。構造体の一翼に閉じ込められた生存者。隔壁の隣は真空という恐怖。
わずか数名の生存者が繰り広げる、宇宙のサバイバル小説。

生存者のキャラが、妙に暗い施設管理者、エゴイスティックな医者、ケバケバわがまま娘、幼気な兄妹など、ステレオタイプなのが漫画チック。
会話や心理描写も平板でとって付けたようだし、やや不満が残る。

それでも読者を引き付けるのは、極限状態のサバイバルになんだか知らないが面白さを感じるからだなあ。
パニック・サバイバル・SFときたら、流行りの映画みたいだが、本書もそれと同じような展開だけど、思わず読み進んじゃう。

表紙の絵がすべてを語っているような小説だ。
パニック/サバイバル小説が好きな方は、是非!

天涯の砦/小川一水の表紙
 

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夜のジンファンデル/篠田節子

◆読んだ本◆
・書 名:夜のジンファンデル
・著 者:篠田節子
・出版社:集英社
・定 価:1,500円
・発行日:2006/8/30

◆評価◆
・ホラー短編集度:★★
・人間の情念(愛情と憎悪)度:★★
・やっぱり人間関係の基本は男と女なのね度:★★★

◆感想◆
人の愛情や憎悪や恨みなどの情念をテーマにした、ホラータッチの短編小説集。

普通に暮らす主人公が、ちょっとしたきっかけで非日常の世界に足を踏み入れる。
なにやら恐ろし気でもあり蠱惑的でもあり、覗いてみたいような、みたくないような、そんな世界を読者に味あわせる短編集。

印象に残ったのは「コミュニティ」。
1960年代のフリーセックス文化を連想させる内容。
究極のコミュニティって、こうなるのかね。
でも何か核となるモノがないと、いずれコミューンは解体する。なんらかの思想や秩序が必要となる。
するとまた、それを破壊しようとする文化が台頭する。

人の暮らしは構築と破壊の繰り返し。

そんな話はおいといて、この「コミュニティ」の世界にものすごく興味はあるものの、参画しようとは思わないなぁ。
むしろ「恨み祓い師」に登場する怨念の塊みたいな婆さん(妖怪か?)のように、粘着質な生活をしてみたい。

夜のジンファンデル/篠田節子の表紙
 

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月光とアムネジア/牧野修

◆読んだ本◆
・書 名:月光とアムネジア
・著 者:牧野修
・出版社:早川文庫
・定 価:600円
・発行日:2006/8/15

◆評価◆
・幻想と怪奇のサスペンス小説度:★★★★
・伝説の殺人者を追う元刑事の追跡劇度:★★★★
・愛と憎悪と記憶の混沌度:★★★

◆感想◆
突然発生する愚空間という特殊な場。この空間に入った者は、ほぼ3時間ごとにその間の記憶を失う。その自然災害「レーテ」に伝説の殺人者「町田月光夜」が侵入する。特務部は町田月光夜を追い、レーテに進行するが…

記憶をリセットし、かつ重篤な記憶傷害を引き起こす自然現象「レーテ」。この舞台が秀逸。これだけで半分は勝ったも同然。奇妙な世界を考えたものよ。

町田月光夜という、60年間誰にも姿を見られず年令も生別も知られていないという殺人者もミステリアスだが、その名前も怪奇。殺人者を追う特務部の面々も、アガタ原中県立軍兵でゆずす兵の鶴田潅木、レーテ性認知障害の学者溝呂木ムカゴ、オモイダシ使いの古沢ミチなどなど、いかにも怪奇と幻想っぽい登場人物満載で雰囲気は最高!

レーテ内に進行した特務部が町田月光夜を追跡する、というのが物語の骨子だが、登場人物にまけない悪夢のような事件や生物も出てきて、一瞬風変わりな冒険小説のような味わいも。

おまけに量子論的なウルトラCもあったりして、へんてこりんな小説が好きな人には、たまらない世界を堪能できる。
なんか夢に出てきそうだ。

月光とアムネジア/牧野修の表紙
 

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名もなき毒/宮部みゆき

◆読んだ本◆
・書 名:名もなき毒
・著 者:宮部みゆき
・出版社:幻冬舎
・定 価:1,800円
・発行日:2006/8/25
     
◆評価◆
・社会派ミステリー度:★★★★
・人間ゆえに抱えてしまう毒度:★★★★
・鮮やかに立ち上がる登場人物たち度:★★★★★

◆感想◆
愛犬との散歩の途中、コンビニで買った烏龍茶を飲んだ古屋明俊が、そのまま絶命するという凄惨な事件が起こる。連続無差別毒殺事件の4人目の犠牲者と報道されるが…

大企業の社内報編集部に在籍する主人公の杉村。こいつがなかなかのほほんとしていていい。周りのスタッフも穏やかで、のんびりしている。
ところが、というか偶然にも、というかお約束というか、杉村の周囲でアルバイトの女性を巡った困った事態が発生!

主人公の職場にいるこまったちゃん騒動、財閥の娘婿という主人公杉浦の生活、連続無差別毒殺事件。
同時に展開する物語が、しだいに収束してついには!って感じの緊張感と、ぐるぐと流れるような展開。
登場人物を鮮やかに描き出しているし、どの人物もいきいきしている。
さーすが宮部みゆき、読者の期待に応える書きっぷりだ。

現代社会に潜み、シックハウス症候群や土壌汚染のようにジワジワとしみ出す人間の悪意=毒。
他人を殺害したり、思うようにならない鬱憤のはけ口を人へ転嫁したりするような毒のある行為を、個人的視点から社会的な視点へ転換。
そうすることで見えてくる「毒」の発生メカニズムが、怒りと悲しみを超えて陰々滅々とした印象を残す。

人間社会は、もう崩壊寸前なのかもね。
なんて思いも浮かぶ一方、社内報編集部のアルバイト五味淵まゆみ(ゴンちゃん)の明るさとか、毒殺事件犠牲者の孫娘古屋美知香(ミカ)の正義感とかに、明るい未来を想像したりもできる。

このへんが著者の作風。
極悪非道の犯人も、著者の手にかかれば哀れで同情をさそう人物に。
宮部みゆきって、とことん心根のやさしい人なんだなぁと思わせる小説だ。

名もなき毒/宮部みゆきの表紙
 

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