だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

アイの物語/山本弘

◆読んだ本◆
・書 名:アイの物語
・著 者:山本弘
・出版社:角川書店
・定 価:1,900円
・発行日:2006/5/31

◆評価◆
・ファンタジック&ハードSF度:★★★★
・バーチャルとリアル/AIの芽生えから自律へ度:★★★★
・人間批評/理想郷度:★★★★★
・著者のSFへのリスペクト/無償の愛度:★★★★★

◆感想◆
人口が激減した近未来。一人の青年が美しいアンドロイドに出会う。マシン全体に敵愾心を抱く青年はアンドロイドに挑みかかるが、彼女は「ただ話がしたいだけ」という…

アンドロイドが青年に語り聞かす物語が、7つの短編小説になっているという構成。
はじめの方の短編は、少年少女向けのSFか、心あたたまるファンタジーといった内容。
ところが、読み進めていくうち壮大なドラマがが見えてくる。
これが、なかなか素晴らしい。
著者のもくろみ通りのできばえ。

主題はAIまたはヒトと人工知能の関係。
AIというと、最近では「デカルトの密室」を思い出すが、本書はそれとは全く違ったアプローチ。
人間とAIの関係を、より人間臭く/愛情深く扱っている。

全体的なトーンがスニーカー文庫しているのが、やや残念なところではあるが、それを差し引いても、最後の2編と構成は素晴らしく感動的。
AIの成立ちやヒトとの対比から人間文化の批評まで、年若い読者にもよく理解できるように書かれている。

それになにより、著者のSFに対する深い愛情を感じる。
そこが本書のとっておきの魅力だ。

アイの物語/山本弘の表紙
 

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走ろうぜ、マージ/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:走ろうぜ、マージ
・著 者:馳星周
・出版社:角川書店
・定 価:1,500円
・発行日:2006/5/31

◆評価◆
・愛犬闘病記度:★★★
・読む前から泣きそう度:★★★
・愛/依存する関係度:★★

◆感想◆
癌に冒された愛犬マージと著者の、壮絶ともいえる闘病記。
著者のホームページにアップされていた「軽井沢日記」を加筆修正したもの。

1ページ目を読んだだけで、愛犬家ならば慟哭を抑えられないんじゃないかと 思えるような、愛と悲しみに満ちた内容。
愛するものを失うっていうのは、それがペットにせよ物にせよ人にせよ、精神 の糧を喪失するってことで、自分の一部が無くなってしまうのに等しい。

愛犬家は心して読まないと、奈落に落ち込むような読後感を味わうかも。

愛犬マージに対する著者の姿は、溺愛といっていいほどの可愛がりよう。
ペットをこよなく愛する人には大いに共感できる所だが、そうでない人にはうっ とうしく見えるかも知れない。
小説であればその感情を昇華させるところを、そのままのむき出しの姿で文章 にしているところに、著者の確信犯的な姿勢が伺える。

馳星周公式サイト「Sleepless City

走ろうぜ、マージ/馳星周の表紙
 

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滅びゆく国家/立花隆

◆読んだ本◆
・書 名:滅びゆく国家
・著 者:立花隆
・出版社:日経BP社
・定 価:2,200円
・発行日:2006/4

◆評価◆
・政治経済評論度:★★★★★
・旬な話題と確かな論評と知的興奮度:★★★★★
・著者の膨大な知識欲度:★★★★

◆感想◆
日経BP社のサイトに著者が連載している評論をアレンジしたもの。

主題はライブドア、天皇、靖国問題、小泉改革等、旬な話題ばかりで興味津々。
ライブドアの堀江と村上ファンドの村上の背後にいる黒幕は?
皇位継承問題の本質は?
小泉首相の靖国神社参拝に中国が反抗する理由は?
小泉改革はいったい何を改革したのか?

著者の膨大な知識と調査によって裏打ちされた論評は、とてもエキサイティング。
データと意見をきっちり分けて評論し、妙な偏向やバイアスがかかっていない著者の文章は、ぼんくらな読者にも良く分かる。

もっと新聞やニュースに耳や目をむけないといけないなぁ。毎日ボーッとしていちゃ激動する世界に完全に飲み込まれてしまうなぁ。なんて危機感を覚えるほどに、著者のアグレッシブな問題追求力と情報収集に圧倒される。

そうは思っても、現実には著者の本を読んだりするだけなんだけどね。
そこでかいつまんだ知識を、あたかも自分の知識のように話したりして。

立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
J-CIA

滅びゆく国家/立花隆の表紙
 

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押入れのちよ/荻原浩

◆読んだ本◆
・書 名:押入れのちよ
・著 者:荻原浩
・出版社:新潮社
・定 価:1,500円
・発行日:2006/5/20

◆評価◆
・リアル&コミカル&ファンタジックなホラー度:★★★★★
・ブラック&シニカル&笑えるミステリー度:★★★★
・物悲しく切ない物語度:★★★★

◆感想◆
著者の守備範囲の広さを物語る、ホラー&ミステリー短編集。
ホラーありミステリーありコメディーやファンタジーありで、改めて著者の引き出しの多さと描写力に感心する。

印象が強かったのは、出だしの「お母さまのロシアのスープ」と表題作の「押入れのちよ」か。
「お母さまのロシアのスープ」は、短編集のつかみとしては最強の吸引力。
背中がゾクゾクする怖さとや先の読めない展開。歴史的背景をも俯瞰させる信ぴょう性。超怖い残酷な童話といった趣き。
小説に出てくるスープというのは曲者だ。

一転、「押入れのちよ」コミカルな中に哀切感のただようホラー小説。
主人公のお気楽ぶりが笑える一方、ちよの姿が不憫。

あくの強い短編もあったりして、素直で真面目な読者は生理的に受け付けないかもしれないが、筒井康隆で洗礼をうけトカジにはまっているような擦れっ枯らしの読者には、バラエティに富んだ短編集として楽しめる。

いずれ直木賞を受賞する作家だよね。

押入れのちよ/荻原浩の表紙
 

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夢はトリノをかけめぐる/東野圭吾

◆読んだ本◆
・書 名:夢はトリノをかけめぐる
・著 者:東野圭吾
・出版社:光文社
・定 価:1,400円
・発行日:2006/5/25

◆評価◆
・トリノオリンピック観戦記度:★★
・ウインタースポーツ好きな著者度:★★
・オリンピックの舞台裏度:★★

◆感想◆
ウインタースポーツ好きの著者が、人間に変化した愛猫とトリノオリンピックを観戦するという、ちょっと趣向をこらした旅行記。

カーリングやフィギュアスケートなど、話題になった種目は記憶に新しいが、それでも冬期オリンピックの競技人口自体が少なすぎるって感じ。
才能のある人はもっとメジャーなスポーツに行ってしまうんだろうなぁ。
でも、だからこそ、それなりのやり方があるってことかもしれない。

スケルトンとかやっていたら、ひよっとしてオリンピック選手になっていたかも知れないし。
(ま、走ったりするのが嫌いな自分は、絶対やらないだろうけど)
それで居並ぶ強豪が軒並みコースアウトして、メダル獲得!
(軒並みコースアウトなんて宝くじに当選するよりありえなそう)
日本に帰国すると報道陣に囲まれて、フラッシュの嵐。「奇跡のスケルトン選手」とか呼ばれて、イナバウアー以上の流行語になったりして。
(ならないし、コピーがださい)

スポットライトを浴びている種目もあるが、全体的には誇大妄想も頭に浮かぶような、マイナーな世界。そこに心血を注いでいる選手やスタッフの姿も取材されていたりして興味深い。

夢はトリノをかけめぐる/東野圭吾の表紙
 

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栄光なき凱旋/真保裕一

◆読んだ本◆
・書 名:栄光なき凱旋
・著 者:真保裕一
・出版社:小学館
・定 価:上1,900円 下1,900円
・発行日:2006/5/10

◆評価◆
・アメリカに住む日系人の第二次世界大戦度:
・戦時に浮かび上がる人の隠された心度:★★
・日系人の苦悩と決断度:★★
・戦争の不毛さと血生臭度:★★★

◆感想◆
アメリカに渡り、懸命に自らの生活基盤を築き上げてきた日系人たち。彼等の運命は、日本軍による真珠湾攻撃で大きく変えられようとしていた…

アメリカに移住した日本人とその二世たち。アメリカ人から差別を受けながらも、アメリカ人として生きる方法を模索している中、日本軍の攻撃が始まる。
ジャップと罵られながら、アメリカで生きる彼等の姿・存在・家族愛・愛国心を描いた大作。

非常に重たいテーマ。
日系人から見た第二次世界大戦という、今までにあまりない登場人物たちの視点が斬新。
多くの日系人がいるハワイに奇襲をかけるという、日系人にしてみれば日本から裏切られたような行為と、日系二世はアメリカ国籍をもつにもかかわらず、周囲のアメリカ人から敵視されるジレンマの中、かれらの選択する道がどうしようもなく虚しい。

本書の構成としては、著者らしい綿密な記述が登場人物の性格や戦争の情景をリアルに描き出している一方、ややしくこく感じてしまうこともある。
ずば抜けた描写で強烈な印象を受ける部分と、冗長に感じてしまう部分がありやや不満が残る。

だが、半端な気持ちでは読めない小説であることは確かだ。

栄光なき凱旋/真保裕一の表紙
  

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