だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

脱出記/スラヴォミール・ラウイッツ

◆読んだ本◆
・書 名:脱出記
・著 者:スラヴォミール・ラウイッツ
・出版社:ソニー・マガジンズ
・定 価:2,200円
・発行日:2005/9/10

◆評価◆
・シベリア収容所からの脱走記度:★★★★
・信じられない過酷な行程度:★★★★★
・極限のサバイバル度:★★★★

◆感想◆
1941年、ポーランド軍に所属していた著者は、ソ連軍にスパイ容疑で逮捕されシベリア送りとなる。シベリアで25年の刑に服することに耐えられないと考えた彼は、仲間6人と脱走をはかる…

ソ連軍による拷問まがいの尋問と冤罪。
シベリアまでの過酷な列車行。
戦時中の道理がまるで通らない理不尽で不条理な裁判や連行過程に、戦争の精神的側面を見たのもつかの間、シベリアからインドまで脱走をはかるというその行程が、すごい。

収容所で工面したわずかの食料と衣類だけで、酷寒のシベリアを脱出したかとおもえば、食料や水の貯えもなく徒歩でのゴビ砂漠縦断。その次に待ち受けるのはヒマラヤ超え。
酷寒、酷暑、脱水、飢餓、拷問、絶望、死。
人生おけるすべての苦しみを味わい尽くすような壮絶な脱出/サバイバル行は、とてもノンフィクションとして捉えきれない、想像を絶するものがある。
よくも生きながらえたものよ。
著者の精神力のすごさに感嘆する。

泣けるのは、途中から仲間に加わるクリスチーナ。
その健気でいながら芯の強さを伺わせる姿が、なんともいえない。

戦争により多くの人の人生がとんでもなくねじ曲ってしまったが、それを個人のリアルな視点で見せられると、平々凡々たる自分の人生がしあわせ&ちんけに思える。

脱出記/スラヴォミール・ラウイッツの表紙
 

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ストリンガーの沈黙/林譲治

◆読んだ本◆
・書 名:ストリンガーの沈黙
・著 者:林譲治
・出版社:早川書房
・定 価:1,700円
・発行日:2005/11/15

◆評価◆
・ファーストコンタクトものSF度:★★★
・地球人と、ネットワーク接続された人との確執度:★★★
・ディテールの描写がハードSF度:★★★★★

◆感想◆
太陽系住民の主要エネルギー源であるAAD(天王星軌道に構築された人工降着円盤)。そのシステムに異常が発生し、エネルギーシステム全体が崩壊しかねない事態となっていた。一方太陽系辺境の観測船では、未知の知性体「ストリンガー」と交信を行おうとしていたが…

ブラックホールを利用したエネルギー発生装置AAD。その制御に異常が起き、AADが崩壊しようとしている! 超やばい状態。
これを改修すべく現地に赴いたアグネスは…
というのが一つのストーリー。
前作「ウロボロスの波動」から繋がる内容だが、前作を読んでなくても大丈夫。
ネットワーク上に棲みついた知性化エージェント(ウイルスみたいなやつね)とか、実存的AIとかのモチーフを操り、AADの異常振動を解決して行くくだりは、思索的。

並行して描かれる二つめのストーリーは、異生とのコンタクト。
辺境の観測ステーションのデータから、有意な重力波が発見される。「コズミックストリングを利用した人類以外の何者かが、太陽系に接近している」という、なんなんだそれは! というかこれは日本語なのか! というあたりがSF好きにはたまらない。
クラーク「宇宙のランデヴー」を思い出させるような前半の展開だが、結末は大違い。

さらに三つめのストーリーが、地球人とよばれる旧来からの文化を堅持する人々と、AADDという体内に情報処理装置を埋込んだ人達との、いざこざ。
宇宙間での戦闘シーンみたいのもあったりする。
でも、なんだかやけに地球人がバカに描かれている。伏線としてももう少し書きようがあったじゃないのか。

この三つのストーリーが並行しからみ合いアクロバティックに展開するが、一番の特徴は、細部のハードSF的描写。前作同様、ガチガチのハードSF的亀甲縛りで読者をかんじがらめに。
技術系SFファンには、お勧め!

ストリンガーの沈黙/林譲治の表紙
 

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夜市/恒川光太郎

◆読んだ本◆
・書 名:夜市
・著 者:恒川光太郎
・出版社:角川書店
・定 価:1,200円
・発行日:2005/10/30

◆評価◆
・向こう側の世界度:★★
・完成された異世界度:★★★
・物悲しく哀切度:★★★

◆感想◆
いずみは、アルバイト先で親しくなった裕司から、夜に開かれる市場へ行こうと誘われる。森の中にあるそれは特別な市場で、どんなものでも手に入ると言われている…

幻想的な文章、妖怪じみた奇怪な登場人物、得体のしれない売り物。ここではないどこかで開かれる夜市。
多分著者は、自分の中で構築してきた異世界のイメージがあるのだろう。物語の世界がゆるぎない。
主人公の行動や思考も、入念に描かれているし。

本書には、表題作の「夜市」と「風の古道」の二編があるが、「風の古道」もなかなか奇妙な趣があっていい。
作者が造り上げた異世界の物語を、もっと味わいたくなる。

ホラーというより幻想小説。
綺談怪談が好みの方には、おすすめ!

夜市/恒川光太郎の表紙
 

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あの日にドライブ/荻原浩

◆読んだ本◆
・書 名:あの日にドライブ
・著 者:荻原浩
・出版社:光文社
・定 価:1,500円
・発行日:2005/10/25

◆評価◆
・哀愁漂うタクシー運転手度:★★
・過去の栄光に拘泥するタクシー運転手度:★★
・妄想するタクシー運転手度:★★★

◆感想◆
出世コースに乗っていながら、上司に言ったひとことで銀行を辞めざるを得なくなった牧村。タクシーの運転手となり糊口をしのいでいるが、銀行員時代や学生時代の様々なことが脳裏をよぎり…

人間誰しも「今のままで俺の人生はいいんだろうか?」「本当はもっと素晴しい生活が待っていたはずなのに」なんて思うもの。
本書の主人公は、支店長候補といわれながらも、ぽろっと口に出たひとことで上司から仕事を干され、左遷させられ、銀行を辞めてしまう。
なんとか活路を見い出そうとするものの、なんとなくなったタクシーの運転手としてもいまいちで、ぼやきと妄想に明け暮れる。

ところどころにジョークの味付けはあるものの、前半は主人公のイジイジしたぼやきとバラ色妄想に少々辟易する。
ま、それが後半の展開の布石にもなっているけど、「起承承承承転結」みたいな構成だったりもして、梅雨時の洗濯物感あり。
タクシードライバーの哀愁と人生を感じさせる展開ではあるが。

そんなイジイジした主人公も、タクシードライバーのプロとしてテクニックを身に付けていくあたりから、だんだん微笑ましい中年男に見えてくる。

仲間のドライバーや元の上司にも、それなりの事情や人生があるってことで、そんな他人の人生が見えるようになった余裕が、自分の人生を豊かにしていくきっかけに。

人生色々。となりの芝生は青く見えるもの。
やっかんでばかりいては、いけません。

あの日にドライブ/荻原浩の表紙
 

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アンボス・ムンドス/桐野夏生

◆読んだ本◆
・書 名:アンボス・ムンドス
・著 者:桐野夏生
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,300円
・発行日:2005/10/15

◆評価◆
・女の執念&妄想&嫉妬&奔放度:★★
・一癖ありそうでそれでいて普通な女性度:★★
・うすら怖い度:★★★

◆感想◆
なにがしかのコンプレックスや問題や憤懣を抱えている女性たちが主人公の、ブラックテイストの短編集。

日常からちょっとずれた位置にいる女性を描かせると、著者の筆致は冴えまくり。
本書に登場する主人公達も、容貌にコンプレックスを持っていたり、妻と別れてくれない男に鬱憤をためていたり、性的な自分を持て余していたりと、マイナス方向のパワーを蓄積した女性たちばかり。
ちょっとしたきっかけで、彼女達の行動が日常からズレ出す。
著者の得意とする展開だな。

それにしても、女性は腹の中で何を考えているかわかんない面があって、怖い。
普通の娘だと思っていたら、突然突拍子もないことをしでかしたりしてね。

「毒童」の落ちも、なんだか訳分からない。
それが妙に怖かったりするんだなぁ。

アンボス・ムンドス/桐野夏生の表紙
 

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ネクロポリス/恩田陸

◆読んだ本◆
・書 名:ネクロポリス
・著 者:恩田陸
・出版社:朝日新聞社
・定 価:上1,800円 下1,800円
・発行日:2005/10/30

◆評価◆
・ファンタジ&ホラー&ミステリー度:★★
・日本と英国の文化が混交する不思議世界度:★★
・ワンダーランドでのアトラクション廻りみたいな度:★★

◆感想◆
この1年間に亡くなった人達が蘇る地「アナザー・ヒル」 許された者だけがヒガンの1ヶ月間滞在し、死者との交流をはかる地。ここで今までにないミステリアスな事件が起きる…

日本とイギリスの文化が混交しているような、ファンタジックな異世界。
蘇った死者には実体があり、触ることも会話することもできる。彼等「お客さん」に接触することは、一種の娯楽と考えられ、この地を訪れたいと希望する人も多い。

そんなワンダーな世界で、ミステリアスな事件が!
まさに恩田陸ワールド。

でもなんか変!

著者らしいホラー&ファンタジックな描写と、ミステリー小説の作法で物語は展開するが、これがどうもチグハグ。
所々読み手を惹き付けるシーンはあるのだが、全体的にはワンダーランドにあるとって付けたようなアトラクションを次々と覗いているよう。

舞台設定が磐石でないところに問題があるのかなぁ。
事件の謎と決着に、不満があるせいかなぁ。
無駄な、意味不明のシーンのせいかなぁ。
構成を連作短編小説にしたほうが、物語に奥行きがでたような気も。

いずれにしても、本書を気に入るか気に入らないかは、著者の造り上げた小説世界を受け入れられるかどうかで、あらかた決まりそう。

自分はどうも合わないみたい。
マヨネーズご飯を食べてる気分。 残念なり~

ネクロポリス/恩田陸の表紙
  

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