だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

デカルトの密室/瀬名秀明

◆読んだ本◆
・書 名:デカルトの密室
・著 者:瀬名秀明
・出版社:新潮社
・定 価:1,900円
・発行日:2005/8/30

◆評価◆
・ロボットSF度:★★★
・AIに関する思惟的SF度:★★★★
・思考実験度:★★★★★

◆感想◆
ロボット工学者の尾形は、出席した人工知能コンテストの会場に、AIの天才といわれたフランシーヌ・オハラの姿を発見する。彼女は尾形に逆チューリングテストともいえるゲームを持ちかけるが…

フランシーヌと尾形は、子供の頃に数学ジュニア国際オリンピックで日本の代表だった。その時から尾形は、フランシーヌの強い視線に心身とも搦めとられてしまう。
そのフランシーヌには感情というものがまるで無く、あたかもロボットのような性格。頭脳明晰で、それが一層不可思議で冷ややかな印象をかもし出している。

物語はこの2人を主人公に、尾形が開発したロボット「ユウスケ」や尾形の恋人などの傍役をたずさえて、展開する。

ロボットによる殺人事件や「2001年宇宙の旅」のチェスシーンの矛盾などが描かれるが、中心となるテーマは、フランシーヌ自身が抱える心的問題を、自ら開発した人工知能でどう解決するか、ということだと思う。
フランシーヌ自身の密室を、どうやって解決するか。

しかし物語のテーマとは別に、AI開発上の様々な問題点とそれに対する著者の考えが、本書の主役となっているきらいも。
なんせ、現代のロボティクスに関する記述や、一種哲学的な思考実験がすごい。

チューリングテスト、フレーム問題、中国語の部屋、グラフ理論と、ロボティクス分野にとどまらず、数学やら哲学やらの分野にまで及ぶ考察が、物語の随所にあふれている。

AIの在り方や生き物と機械の違いなどにも言及しており、その記述はSF的知的好奇心を刺激させる。この方面に詳しい読者には、納得のいく小説かもしれない。
ボンクラな読者(俺のことだ)には、SF的知的好奇心を刺激させられはするものの、カタルシスは得られないが(やっぱ、バカだから?)。

この方面に詳しくない方は、チューリングテスト、フレーム問題くらいは事前に調べておいた方がいいかも。
著者はそれ以上の基礎的な知識を読者に要求しているようだが、相当のSF好きでないと、こたえられないのでは?

デカルトの密室/瀬名秀明の表紙
 

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容疑者Xの献身/東野圭吾

◆読んだ本◆
・書 名:容疑者Xの献身
・著 者:東野圭吾
・出版社:文芸春秋
・定 価:1,600円
・発行日:2005/8/30

◆評価◆
・物悲しいミステリー度:★★★★
・容疑者Xに仕掛けた策は?/大どんでん返し度:★★★
・一途で純粋な数学者は、恋にもひたむき度:★★★★
◆感想◆
スナックを辞め弁当屋で働く靖子の元に、別れた夫が訪ねてくる。復縁を執拗に迫る元夫を、はずみで殺害してしまうが…

靖子に恋心を抱く、さえない数学教師の石神。靖子が起こした殺人事件を、石神は数学の問題を解くように完全犯罪に仕上げようとする。
天才的な頭脳を持つ石神。やむなく高校の教師をしている彼の、数学の難題に人生を賭けているという世間と隔絶している日常と、まっさらで純粋な性格なくしては、この小説は成り立たない。

事件の犯人や動機は冒頭で提示される倒叙式のミステリーだが、読みどころは石神のしかけた「恋する女性を助けるための完全犯罪のシナリオ」はいったいどうゆうものなのか! というところ。
このシナリオが最後まで分からなければ、ラストの畳み掛けるような展開と相まって「秘密」ばりの感動的な小説になったはず。
物語の途中でシナリオが読めっちゃったのが、残念。分からないまま最後に驚きたかったなぁ。
靖子の娘である美里の登場シーンも少なく、彼女に関する展開がもう一ひねりあれば、と思うのは欲張りか。

「人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある」という主人公の独白が、物悲しく運命的。

容疑者Xの献身/東野圭吾の表紙
 

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老ヴォールの惑星/小川一水

◆読んだ本◆
・書 名:老ヴォールの惑星
・著 者:小川一水
・出版社:早川文庫
・定 価:720円
・発行日:2005/8/15

◆評価◆
・ハードSF短編集度:★★★
・異世界や知的生命体との接触&人間模様度:★★★
・「漂った男」がすごい!度:★★★★★

◆感想◆
昨年のベストSF3位に選ばれた著者の「復活の地」。100ページくらいで挫折した記憶も新しいのだが、「本の雑誌」で取り上げられていたのと、他にこれといって食指の動く本がなかったので読んでみることに。

地底の迷路のような洞窟に投獄された人達の物語や、ある惑星に棲む知性体の脱出?劇や、バーチャルリアリティをベースにした知性体とのコンタクト小説と、バラエティーに富んだ短編集。
読者を惹き付ける力はあるものの、どっかで読んだことあるような無いような印象が…

ところが、「漂った男」を読んでおったまげ!
これはなかなかすごいぞ。

一面を海に覆われた無人の惑星に、偵察機が墜落。脱出したパイロットが海上をひとり漂流しながら、無線機だけを頼りに救助を待つという短編だが、これがうまい。

長時間の漂流により自分が狂ってしまうのではないかという恐怖感、愛する妻とのせつない会話、救難隊の担当者との親密な交信。
ユーモアにからめて描かれるシリアスな描写と、この先どうなるのか興味を抱かせ予断を許さない展開は、読みごたえ十分。
設定はSFだけど、内容は一人の男の極限状態を描き出した鬼気迫るドラマ。

そこらの半端な恋愛小説より、この「漂った男」一編の方が断然面白い!

老ヴォールの惑星/小川一水の表紙
 

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