だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

天冥の標VIII ジャイアント・アーク PART1,PART2/小川一水

◆読んだ本◆
・書名:天冥の標VIII ジャイアント・アーク PART1,PART2
・著者:小川一水
・定価:PART1 720円 PART2 740円
・出版社:ハヤカワ文庫
・発行日:PART1 2014/5/25 PART2 2014/12/25

◆おすすめ度◆
・第1巻がよくわかるPART1度:★★★★★
・冒険小説のようなドキドキのPART2度:★★★★★
・これからの予想外の展開を期待しちゃう度:★★★★

◆感想◆
第1巻「メニー・メニー・シープ」で描かれた物語を別角度から再描画するPART1。そしてさらに物語の先を描き始めるPART2。天冥の標もいよいよクライマックス。

アマゾンのレビューに第1巻を再読しておいた方がいいという旨のコメントがあって、それに従い「メニー・メニー・シープ」を読みなおすと超ビックリ。
何がなんだかさっぱりだった第1巻が、それはもう物語のエッセンスの詰まった物語に変貌。
第1巻の内容をよく覚えていない自分にもびっくりだけど、「天冥の標VIII ジャイアント・アーク」を読み終わってみれば、冥王斑パンデミックで始まった物語がとてつもない紆余曲折を経て「救世群」対「未染者」の物語に集約しつつあるようにも見える。

第1巻で描かれた物語に、第2巻から第7巻までの物語を収束させつつ、さらにその先の展開を伺わせる本書。
「なるほどそうか!」と感嘆しつつ「わくわくドキドキ!」しながら読み進めるのも魅力だが、指をふやかして次巻を待つのが「天冥の標」シリーズの最大の楽しみだったりもする。

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ナオミとカナコ/奥田英朗

◆読んだ本◆
・書名:ナオミとカナコ
・著者:奥田英朗
・定価:1,700円
・出版社:幻冬舎
・発行日:2014/11/10

◆おすすめ度◆
・スリルとサスペンス小説度:★★★★★
・何故か2人の女性に感情移入度:★★★★
・空前絶後でも大風呂敷でもないのにこの面白さ度:★★★★★

◆感想◆
百貨店の外商部で働く直美。友人の加奈子が風邪をひいたというので直接家を訪ねるが…

直美と加奈子の2人が主役のこの物語、どこにでもありそうな舞台設定で、どこにでもいそうな登場人物たちなのにこの面白さ。
読み始めたら止まらないっ。
2人のドキドキが手に取るように伝わってきて、読んでる方も心臓バクバクになること請け合いのスリルとサスペンス。

大風呂敷を広げたり、度肝を抜く設定を用意したりして読者を惹き付けることなく、これだけ物語にのめり込ませる著者のテクニック。
おまけに、「犯罪者」となる2人の女性を応援したくなるこの気持ち。

中国人の李朱美も男前ないい味出しているし、陽子(加奈子の旦那の妹)が一段とスリスとサスペンスを盛り上げる。
最期の1行まで飽きさせず読ませるこの小説、本年ベスト1級の面白小説だ。

控えめな印象だった加奈子が、後半アグレッシブな性格に変貌?していく様子も見逃せない。
危機を前にすると女性は怖いくらい強くなるのかも。
男性の皆さん、女性には優しくしましょう。

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火星の人/アンディ・ウィアー

◆読んだ本◆
・書名:火星の人
・著者:アンディ・ウィアー
・定価:1,200円
・出版社:ハヤカワ文庫SF
・発行日:2014/8/25

◆おすすめ度◆
・サバイバルSF冒険小説度:★★★★★
・何事にもめげない前向きな主人公度:★★★★
・単純明快なストーリーがいい度:★★★★
・火星に行くときは持っていきたい本度:★★★★★

◆感想◆
猛烈な砂嵐により探査を中止せざるを得なくなった火星探査隊。宇宙船で火星を離脱する寸前、砂嵐により折れたアンテナがマーク・ワトニーを直撃する…

火星に一人取り残された主人公のマーク・ワトニーが、なんとかして生き残ろうと奮闘するサバイバルSF冒険小説。
派手なアクションはないものの、次々と直面する不測の事態に対応する主人公の奮闘が読ませる。

途絶した地球との通信は?
残り少ない食料は?
水や空気は?
さらにどうやって地球に帰還するのか?

エンジニアにして植物学者である主人公が、持てる知識と技術を駆使する様子がSFならではの読みどころ。
派手なアクションシーンはないものの、最後まで飽きさせずハラハラドキドキの展開。
無人島やジャングルが舞台のサバイバル小説だと普通?の冒険小説になるところだが、火星を舞台にしたところがミソだなあ。

それにしてもリアル。
ちょっと読者サービスのユーモアを交えた、実際に起きた事故のノンフィクション、あるいは火星遭難者の手記にといってもいいほど。
将来火星探査に行くときは持って行きたい本だ。
万一不測の事態が発生しても、本書の主人公のようにめげずに前向きに頑張れば、何とかなるような気にしてくれるだろう。
(たぶん宇宙空間にも行かないだろうけど)


本書はリドリー・スコット監督で映画化進行中。

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鹿の王/上橋菜穂子

◆読んだ本◆
・書名:鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐ 鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐
・著者:上橋菜穂子
・定価:上1,600円 下1,600円
・出版社:角川書店
・発行日:2014/9/25

◆おすすめ度◆
・一気読みの異世界ファンタジー小説度:★★★★★
・巨大帝国の思惑と弱小部族の生き残り戦略度:★★★★
・人体∽社会 とちらも生きるために必死度:★★★★
・やんちゃで元気なユナが可愛すぎる度:★★★★★

◆感想◆
帝国に囚われ岩塩鉱で強制労働を強いられる戦士団<独角>のヴァン。ある夜、岩塩鉱の労働者たちが犬の群れに襲われ、そのかみ傷が原因と思われる奇病が発生するが…

「守り人」シリーズや「獣の奏者」シリーズがめちゃ面白い上橋菜穂子の長編。
期待に違わず面白い。
巨大帝国の思惑や、帝国に吸収され虐げられている弱小部族の反乱や、特異な医療技術を武器に帝国と一定の距離をとりながらも活路を見出そうとしている民族など。
様々な人々の想いを背景に、岩塩鉱で強制労働させられていた戦士のヴァンが、いかにして生き残るかという一種のサバイバル小説でもある。

物語の発端となるのは犬のかみ傷が原因と思われる奇病。
罹患した人や、それを治そうとする医師、さらにその病を戦略的に使おうとする人たち。
そして自らの生き残りをかけた行動さえ、人々の思惑に捕われ翻弄される主人公のヴァン。
いったい彼の前にはどんな道があるのか…

物語は、なにもここまで複雑にしなくても、と感じるような多面的な展開である一方、人体はミクロコスモスというテーマを社会にも敷衍する構成とすれば納得も。
医学に関する考え方や、人が生きるという意味を自らに問う登場人物たち。子供向けのファンタジーと侮ってはいけない。

もう一つの読みどころが、ヴァンが助ける幼い「ユナ」と名付けられる少女。
やんちゃで元気なユナが、それはもう可愛すぎ。
戦士じゃなくても、この子を助けるためには何でもしようという気になっちゃうこと必至のお茶目さ。
ラストも爽やかで暖かい。

著者の「精霊の守り人」が、綾瀬はるか主演で2016年にNHK大河ファンタジーとして実写化。 個人的には、女用心棒のバルサは天海祐希が一押しだったのですが。

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『鹿の王』上橋菜穂子 著者インタビュー

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二千七百の夏と冬/荻原浩

◆読んだ本◆
・書名:二千七百の夏と冬
・著者:荻原浩
・定価:上1,300円 下1,300円
・出版社:双葉社
・発行日:2014/6/22

◆おすすめ度◆
・二千七百の時を超えても変わらぬ人間の営み度:★★★★
・猛々しく雄々しい/甘く切ない度:★★★★★
・まるで見てきたかのような描写度:★★★★★

◆感想◆
ダム建設工事の途中に発見された人骨は、縄文人男性と弥生人女性のものと推定された。大きな損傷もなく発見された二体は、何故か互いの手をしっかりと握りしめるように絡み合っていた…

縄文時代の終わりの頃を舞台に、一人の青年を主人公にして描かれる、愛と勇気と成長の物語。
これがとてつもなく切ないラストの物語になっている。

当時の様々な風習や文化。まるで当時の暮らしぶりを見てきたかのようなリアルな描写がすばらしい。
著者の持ち味であるコミカルな描写は、物語に温かい雰囲気をかもし出しているし、手斧や弓を使った狩りのシーンは冒険小説さながらの手に汗握る迫力。

しかしなんといってもこの物語の魅力は、互いの手をしっかりと握りしめるように絡み合っていた縄文人男性と弥生人女性のドラマ。

発見された人骨の描写から、二人の若い男女が迎えた最期は想像できるものの、そこにたどり着くまでの物語が猛々しく雄々しく、そしてとても甘く切ない。
若い二人の最期が、こんな不条理で儚いものだなんて…

それとない文明批評もくわえながら、人間なんて縄文時代から何も進歩していないんじゃないか、と思わせる一気読みの物語だ。

顔より大きくなる葉を、糞をした後の尻拭きに使っていたことから名付けられた「クソフキ」。短く縮めて「フキ」とも言う。

本当?!
フキを食べるたびに思い出しそうな語源だ。

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機龍警察 未亡旅団/月村了衛

◆読んだ本◆
・書名:機龍警察 未亡旅団
・著者:月村了衛
・定価:1,900円
・出版社:早川書房
・発行日:2014/1/25

◆おすすめ度◆
・近未来警察小説度:★★★★★
・スリルとアクションと謀略とテロ度:★★★★★
・過去を背負った登場人物たちの生き様度:★★★★★
・眠気を吹っ飛ばす面白さ/完結まで死ねない度:★★★★★

◆感想◆
チェチェン紛争で家族を失った女性だけで組織された「黒い未亡人」。日本に潜入した彼女たちがテロを計画しているという情報が…

チェチェン紛争の実態と、その犠牲者である「黒い未亡人」たちの生い立ち。
「龍機兵」とテロリストたちとの手に汗握るアクションシーン。
警察内に根を張る組織の確執と、しだいに明らかになる「敵」の存在。
そして、登場人物一人ひとりの過去と現在が、複雑な網の目のようにからまり物語が展開する。

読み始めたら止まりません。眠気も吹っ飛ぶ面白さ。
チェチェン紛争に巻き込まれた人々の苦しみに胸が締め付けられ、むごいテロの情景に背筋が寒くなり、最新の近接戦闘兵器・龍機兵に搭乗した気分で手足を振り回したくなり、思わず涙と鼻水もこぼれそうになるという、読者の身体にもダメージを与えかねない精緻さと迫力。

警察小説やアクション小説、SF小説としても面白さも抜群ですが、読者を魅了するのは自らの信じることを貫こうとする登場人物たちの「魂」。
そしてそのぶつかり合い。

このシリーズ、巻を追うごとにスケールアップし、人物に厚みが出てきて、面白さに拍車がかかってます。
シリーズが完結するのを見届けるまでは死ねませんっ。

2ページに渡る登場人物一覧表。
普通は読んでる途中で見返して確認したりするんですが、本書ではそんな必要がないくらい人物が生きてます。
新しい缶コーヒーが出たら姿警部に教えたくなるくらい、缶入りおしるこを馬面の曽我部警視に差し入れしてもいいかなと思うくらいに人物描写がすぐれていて印象に残ります。

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『機龍警察 未亡旅団』(月村了衛)/馬場秀和ブログ
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桜ほうさら/宮部みゆき

◆読んだ本◆
・書名:桜ほうさら
・著者:宮部みゆき
・定価:1,700円
・出版社:PHP研究所
・発行日:2013/3/11

◆おすすめ度◆
・心温まる時代小説度:★★★★★
・いつまでも物語に浸っていたい度:★★★★★
・大胆な展開もあり度:★★★★

◆感想◆
上総国搗根藩で小納戸役を仰せつかる古橋が、賄賂を受け取った疑いをかけられて自刃する。古橋家次男の笙之介は、江戸深川の長屋に住みながら、事件の真相を明かそうとするが…

江戸の下町を舞台にした、人情と淡い恋と御家騒動をいい塩梅でミックスした心温まる時代小説。
過去の著者の時代小説同様、完成してます揺るぎません。
温かく心地よい物語の世界に、いつまでもゆるゆると浸っていたくなる小説です。

笙之介と勝ち気なお嬢さんとの淡い恋あり、下町の人情話あり、ちょっとしたミステリーあり、尾家騒動の大胆な展開あり。
そして物語を貫く「名は字は体を表す」ならぬ「文字は体を表す」みたいなテーマもあって、うきうきしたり感心したりドキドキしたり。

浮き世の「ささらほうさら」を忘れるには「桜ほうさら」を読むのが一番。(決まったっ)

挿絵もほのぼのしているし、ペジには桜の花びらがレイアウトされているし、起こし絵なんていうアイテムも物語に出てくるし、たおやかな少女なら抱きしめて寝たくなるような本です。

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宮部みゆき最新作、浪人の恋と家族の難しさを描く時代ミステリー『桜ほうさら』を刊行/MSN産経ニュース

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