だな通信 ミステリー文庫

国内の新刊ミステリー小説を中心とした独断的読書感想。 「面白い本なら何でもOK」というのが信条。 趣味の合う方には参考になるかも。合わない方は評価を反対に見てね。

弥勒世/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:弥勒世
・著 者:馳星周
・出版社:小学館
・定 価:上1,800円 下1,800円
・発行日:2008/2/25

◆評価◆
・魂を取り戻そうとあがく男の物語度:★★
・虐げられ続けた沖縄と米軍との軋轢度:
・行動とは裏腹に、奇異なほど若い精神の主人公度:

◆感想◆
ベトナム戦争や本土復帰に揺れる沖縄。新聞記者の尚友は、沖縄にも、卑屈な自分にも、すべてに対して嫌気がさしていた。そんなおり米軍の関係者から、スパイまがいの情報収集活動を依頼され…

日本本土や米軍から虐げられる沖縄。彼らに迎合する沖縄。ベトナム戦争に送られる米兵たちの鬱屈と、彼らをとりまく沖縄の住民。
そんないろんなわだかまりを背景に、物語は展開する。

主人公は共に施設で育った尚友と政信。
頭がよく如才ない政信に、尚友はずーっと劣等感を感じている。
一方政信も沖縄のありかたに不満をかかえ、やくざなどの人脈を使ってある計画を企てる。

男達が企てる計画は展開が遅くて、読んでいてややつらい。
要所要所で触れられる、自分の居場所のなさと無くした魂についての描写も、昔の著者だったら、とっくに殴り合ったり殺し合ったりとエスカレートしているはずが、心象風景が繰り返されるばかりで、なかなか進行しないし。

そんな展開の中でもひとつ奇異なのは、主人公尚友と恋人の関係。
半分ならず者の尚友なのに、恋人に対しては高校かと思わせるような若い感情で接する。彼女に大しての感情を持て余し、自分を理解してくれないだろうことにいらつき、かと思えば甘える。

なんだかチグハグだ。
つらいことがあったからといって、彼女の膝で泣くような男が主人公のノワールなんて、過去には想像つかなかったぞよ。
どんな男にだって、弱々しくなったり女性に甘えたり戸惑ったり心と裏腹な言葉を投げつけてしまうことはあるけれど、それをそのまんま書いてはプライベートすぎてなじめない。ちょっと赤面だ。

ラストも、長い助走の割には飛んでないし。
「それじゃ、もっと納得のいく文章をお前が書いてみれ!」といわれても書けないんだけどね。

弥勒世/馳星周の表紙
  

テーマ:感想,おすすめミステリー小説,本 - ジャンル:本・雑誌,本,感想,ミステリー

約束の地で/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:約束の地で
・著 者:馳星周
・出版社:集英社
・定 価:1,400円
・発行日:2007/9/30

◆評価◆
・ダークパワー爆縮度:★★
・悲しく寂しい主人公達度:★★
・わやだ度:★★★

◆感想◆
北海道を舞台にした、悲しく寂しい登場人物たちの物語。
それぞれに鬱屈や悲しみを抱えながらも辛抱して生きていくが、どこかでその箍が外れてしまい…

今までの著者の小説であれば、ここからダークパワーが炸裂しまくっていたのに、この小説は暗さがドヨ~ンとよどんでいる。

暗いぞ馳星周! 読んでるこっちも凹んでくるぜ!!

生きる希望とか夢とか、大金持ちになるとか、美女をはべらして焼肉を食べるとか(ちょっと違うか)、そういった前向きモリモリ人生とは真反対の内容で、寒い冬に独り四畳半のアパートで読み始めたら、田舎に帰りたくなること請け合いだ。
(暗~く沈み込みたい気分の時に読むのにも請け合いだ。)

読み時を間違えないようにしないといけない。

約束の地で/馳星周の表紙
 

テーマ:感想,おすすめミステリー小説,本 - ジャンル:本・雑誌,本,感想,ミステリー

ブルー・ローズ/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:ブルー・ローズ
・著 者:馳星周
・出版社:中央公論新社
・定 価:上1,500円 下1,500円
・発行日:2006/9/25

◆評価◆
・犯罪小説度:★★
・堕ちて行く男度:★★★
・静から動へ/精神愛から欲望へ/相反する感情度:★★★★

◆感想◆
弁護士事務所の調査員徳永は、刑事時代の上司から娘の失踪調査を依頼される。
青いバラを作ることが夢だったという彼女の行方を調査するうち…

出だしはなんだか在り来たりの展開と雰囲気で、著者らしいパワーが無い。展開や人物描写も平板だ。
なんだか変だなあ、と思いながら後半に突入すると、徐々に動的そしてダークパワー炸裂!といった展開に。

物語が静から動へ、生から死へ、愛情から苦痛へと変化する様子は、少々書き方がガサツだが読ませる力はある。

でも考えてしまうのは、前作「走ろうぜ、マージ」から伺える著者の気持ち。
本書を書いている時期には、小説なんか書いている余裕は無かったのではないかと。

主人公の徳永が、精神的に脆いところのある女性に父性愛とも言えるような哀れみに似た感情を覚えたり、前半の展開に比べ後半が無謀なほど暴力的だったりするのは、著者の愛犬マージとの関係に由来する代償行為のようで、痛々しい。

勘ぐり過ぎかもしれないが、物語の描写や展開と主人公の厭世的な行為や内在する生(性)への欲求に、著者の自傷的な思いを感じてしまう。

ブルー・ローズ/馳星周の表紙
  

テーマ:感想,おすすめミステリー小説,本 - ジャンル:本・雑誌,本,感想,ミステリー

走ろうぜ、マージ/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:走ろうぜ、マージ
・著 者:馳星周
・出版社:角川書店
・定 価:1,500円
・発行日:2006/5/31

◆評価◆
・愛犬闘病記度:★★★
・読む前から泣きそう度:★★★
・愛/依存する関係度:★★

◆感想◆
癌に冒された愛犬マージと著者の、壮絶ともいえる闘病記。
著者のホームページにアップされていた「軽井沢日記」を加筆修正したもの。

1ページ目を読んだだけで、愛犬家ならば慟哭を抑えられないんじゃないかと 思えるような、愛と悲しみに満ちた内容。
愛するものを失うっていうのは、それがペットにせよ物にせよ人にせよ、精神 の糧を喪失するってことで、自分の一部が無くなってしまうのに等しい。

愛犬家は心して読まないと、奈落に落ち込むような読後感を味わうかも。

愛犬マージに対する著者の姿は、溺愛といっていいほどの可愛がりよう。
ペットをこよなく愛する人には大いに共感できる所だが、そうでない人にはうっ とうしく見えるかも知れない。
小説であればその感情を昇華させるところを、そのままのむき出しの姿で文章 にしているところに、著者の確信犯的な姿勢が伺える。

馳星周公式サイト「Sleepless City

走ろうぜ、マージ/馳星周の表紙
 

テーマ:感想,おすすめミステリー小説,本 - ジャンル:本・雑誌,本,感想,ミステリー

トーキョー・バビロン/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:トーキョー・バビロン
・著 者:馳星周
・出版社:双葉社
・定 価:1,700円
・発行日:2006/4/20

◆評価◆
・裏金奪取合戦度:★★★
・策士策に溺れる/事件の裏に女の影度:★★★
・社会の裏側/金に群がるハイエナ度:★★★★

◆感想◆
暴力団のフロント企業に在籍する稗田と宮前。二人がカモにしようとしているのは、消費者金融ハピネスの総務課長だった…

消費者金融の裏側、フロント企業の実情、東西の広域暴力団。金の匂いに敏感なハイエナどもの姿。都会の裏側という著者得意の舞台で、裏金に群がる有象無象の姿が描かれる。

展開はゆっくりだが、金融業者と警察やヤクザとの繋がりなどさもありそうだし、策士策に溺れるといった展開や、ものごとの破綻の影には女が必ず関係するという戦国時代からの必定といってもいい落とし穴もじっくり書き込まれているためか飽きはしない。

消費者金融の総務課長という世間の裏側を知り尽くしたような男が、他のヤクザやヤクザまがいの登場人物に比べ、なさけない普通のオヤジに設定されているのも、興味深い。
傍役ながら重要な役割のクラブホステス紀香も、微妙な設定。

かつての著者なら、登場人物達は暗いパワーを暴力的に発散するヒトに変身するんだが、本書では変身しない。
楽園の眠り」でも感じたが、作風変わったよね。

変身したのは著者の方ってことか?

トーキョー・バビロン/馳星周の表紙
 

テーマ:感想,おすすめミステリー小説,本 - ジャンル:本・雑誌,本,感想,ミステリー

楽園の眠り/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:楽園の眠り
・著 者:馳星周
・出版社:徳間書店
・定 価:1,600円
・発行日:2005/9/30

◆評価◆
・ノワール度:★★★
・虐待する側の論理度:★★★★
・それに起因する心の葛藤度:★★★

◆感想◆
刑事の友定は妻と別れてから、息子の雄介を虐待するようになる。可愛い息子でありながら、雄介の柔らかな皮膚に暴力をふるうことを止められない。いつか自分の仕業がばれてしまうのではないかと思っている時、雄介を預けている託児所から電話が…

どうにも自分の衝動を止められない友定。彼の息子で、半ば自閉症に落ちいている雄介。恋人に裏切られ、幼い頃から父親に暴力を振るわれていた高校生の妙子。

雄介と妙子がふとしたきっかけで出会うことから、二人の逃避行が始まる。
妙子は、雄介に自分と同じ虐待の痕跡を発見し、雄介を自分の子供のように守ろうとするが、親であり刑事の友定は、執拗に息子を探し出そうとする。

逃げる妙子と雄介、追う友定。

登場人物も少なく、展開もストレートで分かりやすい。
最盛期?の馳星周的暴力シーンもなく、込み入ったヤクザや中国系マフィアの人間関係もなく、きわめてシンプル。
児童虐待される側とする側が、援交や出会い系サイトなどをからめて描写されているところに著者の持ち味を感じさせる。が、なんか作風がかわったなぁ。

でも結末は馳星周ノワール。
なにもそこまでしなくたって、と思うのはノワールを語る資格無しか?

楽園の眠り/馳星周の表紙
 

テーマ:感想,おすすめミステリー小説,本 - ジャンル:本・雑誌,本,感想,ミステリー

長恨歌/馳星周

◆読んだ本◆
・書 名:長恨歌
・著 者:馳星周
・出版社:角川書店
・定 価:1,600円
・発行日:2004/11/30

◆評価◆
・クライムノベル度:★★★
・裏社会の掟とそれを操る男度:★★★
・限り無くウエット度:★★★★

◆感想◆
新宿歌舞伎町。揺頭という麻薬の売買をめぐり、東明会と中国マフィアの韓豪が密談をしていた。そこにいきなり現れた2人組がショットガンを乱射。殺された韓豪の部下である武基裕は、犯人を探そうと…

不夜城三部作完結編登場! といいながらも前作の内容を忘れているし。
馳星周の小説は、横溝正史や渡辺美里(違うか?)みたいに、どれを読んでも同じような印象。人間のドロドロした感情や暴力、裏切り。
本書も歌舞伎町を舞台に、中国マフィアやヤクザ、それに関わるうさん臭い人々が登場し、掟破りの殺し合いが始まる。

人間の恨み妬み嫉みやらをまぜながら、裏社会をリアルに描写する手腕は、依然健在。それに、最近の著者の小説に顕著な、主人公のナイーブな心理描写がいい。

中国の奥地から身分を偽って日本人となった武基裕。幼い頃の寒村での暮しと彼を慕う少女の姿。幾たびもフラッシュバックするように描かれる、幼い頃の仲の良い二人の姿が涙を誘う。
こんなに女々しいやつが、クライムノベルの主人公になりうるのかと思うが、なぜか納得できる小説になっている。

少女の名前が「小文」というのも、なんか可愛く思えてるから、漢字って不思議。大人となって登場する小文もいい味だしてるし、他の脇役達が虚無的なやつらばかりで、このあたりは主人公と対照的。
バランスがうまくとれているということか。

この手の小説に酒の描写は付きものだけど、酒のかわりに葉巻とウーロン茶が登場。けっこう新鮮で印象的だった。
葉巻とか吸ってみようかな。

長恨歌/馳星周の表紙
 

テーマ:感想,おすすめミステリー小説,本 - ジャンル:本・雑誌,本,感想,ミステリー

FC2Ad